大きく広がるバイオロギングサイエンスの可能性:電子技術による動物の生態・自然環境の解明

生物の行動の研究は、従来から野外での目視観察を主体としています。このため、人間が直接見ることのできない海洋の生物に関しては、陸上の生物にくらべて、その実態はほとんど知られていません。バイオロギングでは動物に装着したデータロガー(小型記録計)を使って、目視観察ができない水中の生物の行動をとらようとしています。

高度に発達した電子技術は、記録計の超小型化を実現し、大型海洋動物はもちろん、鳥類・魚類などさまざまな生物への利用を可能としました。また多様な計測要素についてもセンサーの小型化・高感度化が進み、バイオロギングの可能性を大きく高めています。 バイオロギング研究は、日本が他国に先駆けて開発した研究の方法で、すでに多くの成果が上げられ、地球上に残された大きな未知領域である海洋研究に、新しいステージを作り出しています。

海洋動物の行動(Bio-Mechanics)

動物達の行動の仕組みを解きあかす

大きな水圧、光の届かない暗黒、長時間の無呼吸状態など、多くの困難の中で、肺呼吸する海洋動物は数百~数千メートルの潜水をおこなう。潜水時の浮力の調節など、海洋での生活に対応した生体のメカニズムも、マイクロデータロガーの利用で徐々に解明されはじめている。

 

海洋動物の生理(Physiology)

海洋動物の生理‥生体の不思議を探る

鳥は内温動物であるにも関わらず、ウミガラスは潜水中に体温を下げていた(変温性)。酸素の補給ができない海中で、より長時間の活動を実現させるための独自の体温調節の仕組みが報告されている。飼育環境下では把握できない、フィールドでのリアルタイムの計測記録が、このような発見をもたらしている。

 

海洋動物の社会行動(Social Behavior)

海洋動物の社会‥生きるものの意識に迫る

群の行動など、陸上動物では観察で把握できる社会的な振る舞いも、海洋動物ではほとんど何も知られていない。複数の個体にマイクロデータロガーを同時装着する方法や映像センサーの利用は、ペンギンの群行動やアザラシの子供の教育など、海洋動物の社会的な行動の研究に新しい方法を開いている。

 

海洋の生物環境(Environment)

動物達が生活している舞台を知る

海洋動物の行動を探るばかりでなく、オキアミやイカ、小魚など餌生物の分布状況、さらにより低次のプランクトンの活動など、海洋深層部の環境情報を捉える。アザラシやクジラなど高次捕食動物の目を通して、リアルな生物相や海洋環境の三次元構造を理解するための、新しいアプローチが始まっている。